光受容イオンチャネルの輸送機構の解明光遺伝学を用いた生命現象の制御
細島 頌子HOSOSHIMA Shoko
研究の概要
私たちは自然界に存在する、微生物型ロドプシンと呼ばれる光受容タンパク質を研究対象にしています。これらは7回膜貫通領域を持ち、7番目の膜貫通領域にレチナールが結合した構造を取っており、真正細菌や古細菌、藻類などに広く存在するタンパク質です。微生物型ロドプシンはレチナールが光を受容した際に起こる電荷の移動やタンパク質の構造変化を利用して、イオン輸送、センサー機能、酵素反応など生体内のシグナル伝達に働いています。近年では微生物型ロドプシンを用いて神経活動の制御を試みる、光遺伝学(オプトジェネティクス)と呼ばれる手法も注目されています。私はイオン輸送を行う微生物型ロドプシンを主な対象として、電気生理学的手法を用いた研究を行っています。微生物型ロドプシンのイオン輸送の機構解明や、それらを光遺伝学ツールとして利用した、新たな手法を開発しています。
クリプト藻由来の光受容陽イオンチャネル(GtCCR4)の電気生理学的解析
緑藻類から発見された微生物型ロドプシンの1種であるチャネルロドプシン2(Channelrhodopsin2, ChR2)は、光を受容することでチャネルが開く、非選択的な陽イオンチャネルとして知られています。私たちの研究グループは、クリプト藻から新たな微生物型ロドプシンを発見し、GtCCR4と名付けました。私たちが新規の微生物型ロドプシンの機能を調べる際、哺乳類培養細胞に目的の微生物型ロドプシンを発現させ、パッチクランプ法を用いて、光を照射した際に生じる電流の計測を行います。パッチクランプ法を用いることで、細胞膜に発現した微生物型ロドプシンを通過する電荷を電流値として測定することができるため、微生物型ロドプシンのイオン選択性や輸送の方向、光に対する感度、開閉にかかる時間などを調べることができます。これらの実験の結果から、GtCCR4はナトリウムイオンやカリウムイオンなどの1価の陽イオン選択性と、光に対する応答性が非常に高い光受容陽イオンチャネルであることが判明しました。現在はGtCCR4が持つ特徴がどのようなタンパク質の構造に由来するのか、イオン輸送や光応答性の機構を解明するため研究を続けています。
高感度な光受容陽イオンチャネル(GtCCR4)による神経活動の光操作
例えばチャネルロドプシン2(ChR2)を神経細胞に発現させ、光を照射すると、ChR2が活性化することで、陽イオンの流入が起きるため膜電位が変化し、それにより電位依存性チャネルが活性化するため神経活動を引き起こすことができます。ChR2とGtCCR4をそれぞれ大脳皮質の初代培養細胞に発現させ、神経活動を引き起こすために必要な光の強さを調べたところ、GtCCR4はChR2に比べ、優位に弱い光でも神経発火が起こせることが分かりました。現在、光遺伝学は神経活動を制御するだけでなく、生命現象の制御にまで応用の範囲を広げています。また光遺伝学ツールを用いた、各種疾病への医療応用の研究も進んでおり、高感度なGtCCR4は生体内での光操作ツールとして今後の活躍が期待されます。
プロフィール
2009年 鹿児島大学 理学部 生命化学研究科 卒業
2011年 東北大学大学院 生命科学研究科 生命機能科学専攻 博士課程前期 修了
2015年 東北大学大学院 生命科学研究科 生命機能科学専攻 博士課程後期 修了
博士(生命科学)
2013年 日本学術振興会 特別研究員(DC2)
2015年 東北大学大学院生命科学研究科 博士研究員
2015年 Humboldt-Universität zu Berlin Visiting Researcher
2016年 日本学術振興会 特別研究員(PD)
2019年 名古屋工業大学 しくみ領域 神取研究室 博士研究員(現在に至る)
業績
- Egawa R*, Hososhima S*, Hou X, Katow K, Ishizuka T, Nakamura H and Yawo H. (2013) Optogenetic probing and manipulation of the calyx-type presynaptic terminal in the embryonic chick ciliary ganglion. PLOS ONE. 8(3):e59179. *Equal contribution first author
- Hososhima S, Sakai S, Ishizuka T, Yawo H. (2015) Kinetic evaluation of photosensitivity in bi-stable variants of chimeric channelrhodopsins. PLOS ONE. 10(3). e0119558.
- Hososhima S, Yuasa H, Ishizuka T, Hiromu Y. (2015) Near-infrared (NIR) optogenetics using up-conversion system. Proc. SPIE 9305. 93052R.
- Hososhima S, Yuasa H, Ishizuka T, Hoque MR, Yamashita T, Yamanaka A, Sugano E, Tomita H, Yawo H. (2016) Near-infrared (NIR) up-conversion optogenetics. Sci Rep. 5:16533.1.
- Kato HE, Inoue K, Abe-Yoshizumi R, Kato Y, Ono H, Konno M, Hososhima S, Ishizuka T, Hoque MR, Kunitomo H, Ito J, Yoshizawa S, Yamashita K, Takemoto M, Nishizawa T, Taniguchi R, Kogure K, Maturana AD, Iino Y, Yawo H, Ishitani R, Kandori H, Nureki O. (2015) Structural basis for Na+ transport mechanism by a light-driven Na+ pump. Nature. 521(7550). pp 48-53.
- 4. Shigemura S, Hososhima S, Kandori H, Tsunoda S. (2019) Ion channel properties of a powerful cation channelrhodopsin, Gt_CCR4. Appl Sci. 9, 3440