女性研究者紹介

細胞を活性化させる生体材料の研究

名古屋工業大学 准教授

OBATA Akiko

生命・応用化学科 環境セラミックス分野
研究キーワード:生命・応用化学 セラミックス工業 環境材料工学 バイオマテリアル研究 生体材料研究

研究の概要

 身体の組織を損傷・欠損した場合に、生体材料(バイオマテリアル)を患部に埋植して治療する方法があります。埋植されたバイオマテリアルに対し様々なタイプの細胞が反応し、材料や周辺環境の条件に依存はしますが、組織の回復に向けて行動を開始します。つまり、バイオマテリアルと細胞の関係性は組織の再生を左右する重要な因子の一つです。我々のグループでは、骨組織と皮膚組織の再生に重要な間葉系幹細胞、骨芽細胞、線維芽細胞、血管系細胞、さらに免疫系細胞にも着目し、バイオマテリアルに対する各種細胞の応答性の調査を進めています。ここで得た結果は、細胞の応答性を制御可能な新規生体活性セラミックスの組成設計につなげています。

 一方で、組織の再生を迅速化させるために、バイオマテリアルに機能性物質を担持させることは有効です。しかし、このような物質の一部は熱や有機溶剤に対して弱かったり、適量を供給できるシステムを構築しないとむしろ悪影響を与えたりしてしまいます。また同時に、材料としての有用性を高めるためにも、優れた操作性を兼ね揃えなければなりません。我々のグループでは、大きな比表面積と優れた柔軟性を兼ね揃えた不織布やわた状の繊維構造体や、優れた細胞侵入性を持つナノ粒子に着目し、機能性物質を担持・徐放する機能を持つバイオマテリアルを開発研究しています。

生体組織の再生に対するイオン効果について

 多くの生体活性セラミックスは、リン酸カルシウムまたはケイ酸カルシウム系組成です。どちらの材料も非常に優れた骨組織再生の誘導機能を示す一方で、果たして同じプロセスを経て誘導しているのか、再生された骨組織は構造上同じものなのか、といった点について不明でした。そこで我々のグループでは、最もシンプルな実験系としてリン酸イオンとケイ酸イオンを添加した培養培地を用い、骨芽細胞の石灰化のプロセスの違いや産生された石灰化組織について調査しています。特に石灰化組織については、いわゆるミネラル分にあたるリン酸カルシウムだけでなく、コラーゲンの構造にも着目して研究しています。細胞培養試験をメインとしつつ、FTIRやRamanなどの諸分光法を用いた解析、共焦点レーザー顕微鏡などを用いた詳細な形態観察を組み合わせて研究を進めています。

 一方で、多くの生体活性セラミックスは複数元素から構成されており、よって材料の溶解や吸収とともに複数種のイオンが同時に周辺の細胞に供給されることが予想されます。これまでは個々のイオンによる細胞への影響に着目した研究が多く、複数種のイオン供給による影響については不明でした。我々のグループではケイ酸イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等に着目し、これらイオンが組み合わさることで発現する細胞に対する新たな効果について調査しています。

成長因子や薬物徐放機能をもつバイオマテリアル

 組織の再生を促す機能を持つ物質として成長因子があります。多くの成長因子はタンパク質であり、熱や有機溶剤などに弱く取り扱いによっては簡単に変性・失活してしまいます。このような繊細な成長因子ですが、これを変性させずにバイオマテリアルに担持させることができたならば、身体内に埋植した際の組織の回復を促すことが可能となります。

 我々のグループでは、水を溶媒として常温合成が可能であり、かつ成形後は難水溶性を示す無機有機ハイブリッド不織布を開発し、本材料の成長因子担持機能について調査を進めています。一方で、表面に様々な物質を修飾可能なナノ粒子についても研究しています。ナノ粒子はそのサイズゆえに細胞内部に侵入しやすく、機能性物質の担体として期待されます。材料についての化学構造解析・物理化学的特性の評価・タンパク質活性評価・細胞培養試験など、様々な解析や評価方法を組み合わせて研究を進めています。

プロフィール

2005年 名古屋工業大学 非常勤研究員

2007年 日本学術振興会 特別研究員

2008年 名古屋工業大学 大学院工学研究科 助教

2015年 同大学 准教授

業績

受賞歴

2003年 日本セラミックス協会21世紀記念国際交流個人冠賞倉田賞

2004年 小林育英会賞

2009年 第19回日本金属学会奨励賞(材料プロセシング部門)

2012年 日本セラミックス協会賞進歩賞

2013年 第22回日本無機リン化学会奨励賞

2018年 永井科学技術財団・永井学術賞